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東京高等裁判所 平成5年(行コ)33号 判決

東京都千代田区東神田二丁目一〇番一三号

控訴人

株式会社辰巳屋不動産

右代表者代表取締役

宮井芳子

右訴訟代理人弁護士

福田照幸

福田治榮

東京都千代田区神田錦町三手丁目三番地

被控訴人

神田税務署長 小野田俊

右訴訟代理人弁護士

岩渕正紀

右指定代理人

山田知司

川名克也

蓑田徳昭

徳永修

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの事業年度の法人税について昭和六三年四月二八日付けでした更正のうち所得金額を七二万一六二二円として計算した額を超える部分を取り消す。

3  被控訴人が昭和六三年四月二八日付けで控訴人に対してした前項の事業年度分以降の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者主張

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に加除訂正するほかは原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三丁裏二行目から三行目にかけての「という。」の次に「ただし、原判決別紙物件目録中の本件建物の一階部分の床面積を『八一・六八平方メートル』に訂正する。」を、同四丁表四行目の「使用している」の次に「(ただし、昭和五九年一〇月まで)」をそれぞれ加え、同五行目の「又は」を「及びその承継人の」に、同五丁裏五行目の「2」を「(2)」に、同七丁表一〇行目の「更地としての」を「これと価額の等しい更地の」に、同一〇丁裏五行目の「本件建物」から同八行目の「していない。)」までを「本件建物の三階部分を被控訴人主張のとおり使用していたことは認めるが、芳子は昭和五九年一〇月以降も同建物部分を使用していた。なお、控訴人は、原審では、芳子は昭和五九年一〇月以降本件建物三階部分を使用していない旨主張していたが、右は事実に反し誤りであるので訂正する。事実は、芳子は同年一〇月に一成方に身の回りの物だけ持って転居し、仏壇や家財道具一式はいつでも戻れるように残してあったものである。」にそれぞれ改め、同一二丁表五行目の「(右借地権割合」から同七行目の「る。)」まで及び同一三丁表七行目の「被告が」から同一一行目の「また、」までをそれぞれ削除する。

二  同四丁表七行目の「右1」から同八丁目の「照らせば、」までを「次に述べるとおり、」に改め、同一一行目の冒頭から同一六丁表四行目の末尾までを次のとおり改める。

「(一) 借地権価格は、一般に、『土地価格×借地権配分割合事例×事情補正×時点修正×標準化補正×地域格差×個別格差』の算式(割合方式)によって算出されているが、右の土地価格とは、当該建物が最有効利用の状態にない場合ないしは借地契約上土地利用が制限されている場合には、更地価格ではなくて、建付地価格を使用すべきものとされている。

そして、建付地価格は、木造家屋の場合の減価率は五パーセントであるが、鉄筋コンクリート造りの建物の場合は、建物を所与のものとしてとらえ、階層別有効地価配分をする場合もある。右階層別有効地価配分の方法によれば、本件土地の最有効利用は九階建ての事務所兼用ビルであるところ、現に建っている本件建物は三階建てであるから、その減価率は六一・九パーセントとなる。また、右減価率が過大であるとしても、木造家屋の場合の減価率が五パーセントであることからすれば、本件建物のような鉄筋コンクリート造りの場合は少なくとも一五パーセントの減価をすべきである。

(二) また、本件借地権は次の点で標準的借地権と異なっているから、標準化補正として一割の減価をすべきである。

(1)  借地権の一部である乙一部分が由楠及びその承継人からの転借地であること。

(2)  借地契約の更新時期が一年半後に迫っており、更新料を支払わなくてはならないこと。

(3)  本件建物は昭和三二年に建築されたものであり、老朽化が進み建替時期が迫っているが、再築許可を得るためには相当の承諾料が必要であること。

(4)  借地の地代は、通常、当該土地の固定資産税、都市計画税の二・五倍程度が標準であるところ、控訴人が芳子並びに由楠及びその承継人に代わって支払っている甲土地の公租公課及び乙土地の地代の合計は右の標準を上回るものであること。また、右の支払額は公租公課であるため、毎年のように上昇すること。

(5)  控訴人と芳子間の賃貸借契約並びに控訴人と由楠及びその承継人との賃貸借契約は、いずれも契約書面が存在せず、事実上なされているにすぎないものであること。

(6)  右各賃貸借契約の締結に際し、権利金は授受されておらず、その代わりに本件建物の三階部分を地主である控訴人会社の代表者に占有されていること。

(7)  甲、乙の最有効利用は九階建ての事務所兼用ビルであるのに、三階建ての建物しか建っていないこと。そして、その三階部分は地主である控訴人会社の代表者が自宅として占有使用しているため、改築や増築の可能性が全くないこと。

(三) また、右(6)のとおり、控訴人が本件建物を建築する際に、借地権を設定する条件として本件建物の三階部分を地主である控訴人である控訴人会社の代表者の自宅として提供する約束をしたため、控訴人は同建物部分を全く利用できない状態にある。しかも、控訴人代表者による右の使用は無償である上、借地権設定の対価としての使用であるから明渡請求もできず、控訴人は永遠に同建物部分を使用できない関係にある。

そして、その効用訴外率は二九パーセントと判断されるから、本件借地権は個別格差として二九パーセントの減価をすべきである。

(四) また、本件建物の一、二階部分は、控訴人がもと経営していたワイシャツ製造販売業の店舗、事務所兼倉庫として建築されたものであり、これを第三者に賃貸するには大改造をする必要がある。

右のように、通常の借地権者が有しているところの建物を自由に使用する権利が制限されている場合は、その借地権価格は相当程度減額されるべきである。

(五) そして、本件借地権価格を、前記割合方式により、右(一)ないし(三)の減価率を適用し、借地権配分割合事例を更地価格の八割、また、事情補正、時点修正、地域格差はいずれもないものとして算出すると、更地価格の一九・九パーセント(建付地価格の減価率を一五パーセントとした場合は四三・四パーセント)となる。

(六) 借地権の譲渡に当たっては、通常その譲渡価格の一割程度に相当する額の譲渡承諾料が貸主に対して支払われる。そして、貸主が借地権の譲渡を拒み借地権を譲り受ける場合も、右相当額を控除するのが一般である。これは、借地人が第三者に借地権を譲渡するかわりに貸主が借地人の借地権を買い受けるのであるから、借地人は第三者に借地権を譲渡したのと同様の財産上の給付を受ければ足りるからである。そうであれば、借地人の借地権と貸主の底地権を同時に第三者に売却する場合も、貸主が借地権を譲り受け、更地として第三者に売却する場合と同じであるから、右相当額を控除すべきである。

控訴人も、本件建物の敷地に係る借地権及び転借権を譲渡したものであり、前記各事情からこれらの権利を活かすには他に譲渡するほかはなかったのであるから、芳子等貸主とともに譲渡ではあっても、これらの譲渡価格の一割程度に相当する額の譲渡承諾料を芳子等に支払うべきであった。

したがって、本件売買代金の配分に当たっては、かかる譲渡承諾料に相当する部分も斟酌すべきである。」

三  同一六丁表五行目の「5」を「4」に改め、同九行目の次に改行のうえつぎのとおり加える。

「5 芳子の顧問税理士である島田雅之と同顧問弁護士である福田照幸が、昭和六一年二月二八日、本件の借地権割合等について三田税務署の税務相談に赴いたところ、同署の担当官は、芳子と控訴人の権利割合は借地権設定の過程やその後の使用状況により決定すればよい旨指導説明した。

そこで、控訴人は、右の指導説明に基づいて控訴人の借地権割合を五五パーセントと決定したものであるが、被控訴人はこれと異なる見解を示し控訴人に押しつけている。

右は、国家権力による権利の濫用であり、信義則に反しゆるされないものである。

6 被控訴人は、昭和六二年二月、本件売買について控訴人取分額が少なすぎるとして控訴人を調査した。そして、福田照幸弁護士の説明により五五パーセントの割合による取分額を納得し、同年四月中旬、控訴人の申告どおりでよいとの結論が出た旨島田雅之税理士に通知してきた。

右のとおり、被控訴人は、控訴人の借地権割合を調査のうえ一度承認したものであり、これを再度蒸し返して更正決定するのは職権濫用であって許されない。」

四  同一九丁裏九行目の「本件物件」から同一〇行目の「といって、」までを「本件建物が最有効利用されていないからといって、」に改め、同一一行目の末尾に「仮りに、観念的には地上建物の利用状況が借地権の価値に何らかの影響を及ぼす場合があり得るとしても、控訴人主張程度の事情ではその価値に影響を及ぼすものとはいえない。」を加え、同二〇丁表五行目の冒頭から同一〇行目の末尾までを次のとおり改める。

「(5) 控訴人は、本件建物の三階部分は控訴人代表者の自宅として占有使用されていたから、これを個別格差として考慮すべきである旨主張するが、控訴人は原審において、三階部分を住居として使用していた芳子は、昭和五九年一〇月に一成方に転居し、同建物部分を明け渡した旨主張していたことから明らかなように、同建物部分は本件売買時点においては既に明け渡されていたのであるから、控訴人の主張は前提自体が事実に反しており失当である。仮に、本件建物三階部分が控訴人主張のとおりの使用状況であったとしても、芳子は現実に同建物部分に居住しておらず、単に家財道具置場として事実上使用しているにすぎないものであるから、その利用状況は本件借地権割合に影響を与えないというべきである。」

五  同一〇行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「4 控訴人の主張5について

島田雅之税理士らの税務相談に対する芝税務署(控訴人主張の三田税務署は誤りと思われる。)の回答は、その性質上、本件売買の具体的な経緯、背景に基づいてなされた確定的なものではなく、一般的なものであったから、本件更正は権利の濫用ないし信義則違反に該当するものではない。

5 控訴人の主張6について

当時の被控訴人の担当官は、本件譲渡の内容について不審を抱き調査を実施したものの、確証がないまま取り敢えず調査を打ち切ったものであり、この調査に基づいて本件借地権割合が五五パーセントであることを認めたことはない。

したがって、本件更正は職権濫用に当たらない。」

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審における書証目録並びに原審における証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件課税処分取消請求及び青色申告承認取消処分の取消請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次に加除訂正するほかは原判決の理由中に認定説示されたとおりであるから、これを引用する。

1  二一丁表八行目の「(但し」から同九行目の「一〇月まで)」を削除し、同行の「主張のとおり」の次に「(ただし、使用期間の点を除く。)」を、同二二丁表二行目の「事実」の次に「及び後記認定」をそれぞれ加え、同丁裏二行目の「本件事業年度中に支払われた」を「本件事業年度である」に改め、同三行目の「認められる」の次に「(ただし、本年途中で本件売買が行われたため、実際の支払額は三五万八三一三円である。)」を、同二三丁表六行目の「代表者」の次に「夫婦」をそれぞれ加え、同七行目の「通常」を「まま」に改め、同丁裏一行目の「代表者」の次に「夫婦」を加え、同二七丁表八行目の「二」を「三」に、同丁裏七行目の「本件建物」から同一〇行目の「採用し得ない。」までを「甲第三一、第三二号証によれば、本件建物と丙建物は連結しており、本件建物の一階床面積と二階及び三階の床面積の差である三・一四平方メートル部分は丙建物の上にあることが認められる。そうすると、右三・一四平方メートル部分は、本件建物の二、三階と丙建物(平屋)が重畳的にその敷地を占有使用しているものであるから、本件建物の敷地としては、その三分の二を本件建物の一階床面積に加算した八三・七七平方メートルとするのが相当である。」に、同二八丁表三行目から四行目にかけての「五七・四〇」を「五六・六九」に、同四行目の「二七・四二」を「二七・〇八」に、同五行目の「二八・八四」を「二九・五五」に、同六行目から七行目にかけての「一三・七八」を「一四・一二」にそれぞれ改め、同二九丁裏一行目の「二六号証」の次に「及び甲第三八、第四一号証」を加える。

2  同三行目の冒頭から同三二丁表七行目の末尾までを次のとおり改める。

「a 甲第三ないし第五号証、第九号証、第二〇号証、第三〇号証、乙第二、第三号証、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の二及び証人三郎、同福田照幸の各証言によれば、次の事実が認められる。

〈1〉  控訴人は、昭和二五年に設立された株式会社であり、甲、乙土地に跨がって存在する丁建物を使用してワイシャツの製造販売業を営んでいたが、昭和三二年に丁建物を取り壊してその跡地に本件建物を建築し、一階部分は店舗、二階部分は倉庫、三階部分は由楠家族の住宅としてこれを使用するようになった。

〈2〉  控訴人は、昭和五一年にその営業目的を「不動産の賃貸及び管理等」に変更し、由楠が昭和五八年九月三〇日に死亡した後の同年一〇月、商号も現在の名前に変更した。

そして、控訴人は、本件建物の一階部分を鼎次が代表取締役をしている有限会社タツミシャツに、二階部分を鼎次に賃貸していたが、昭和五九年九月三〇日、右賃貸借契約を合意解除し、一階部分は第三者に自動車駐車場として賃貸し、二階部分は三郎に倉庫として無償貸与した。

〈3〉  芳子は、由楠死亡後、本件建物の三階部分に一人で居住していたが、昭和五九年一〇月、老後を託すために千葉県船橋市の一成方に転居し、住民票も同人方に移動した。

〈4〉  三郎は、一成、鼎次に内緒で本件建物等を売却する計画を立て、昭和六〇年一〇月二八日、日本住建販売との間で本件契約を締結した。本件契約においては、本件建物及び丙建物は取壊しが前提となっており(取壊し費用は日本住建販売が負担する約定)、本件代金は、甲土地を坪当たり一五〇〇万円、乙土地の賃借権を坪当たり一二〇〇万円(甲土地の八割)と評価して決定された。

〈5〉  三郎は、乙土地の賃借人は芳子であると思っていたが、本件契約締結後、賃貸人である鈴木に挨拶に行った際、賃借人が由楠名義のままであることを知り、鈴木に対して、賃借人の名義を三郎に変えてもらうことを申し入れるとともに、本件売買契約書に借地売主として三郎名義を書き加えた。

〈6〉  一成及び鼎次は、本件契約がなされたことを知って、昭和六〇年一一月、芳子及び三郎を相手方にして遺産分割調停を申立て、昭和六一年一二月一七日、本件売買の関係では、芳子及び三郎が連帯して一成と鼎次に合計九〇〇〇万円を支払う旨の調停が成立した。

〈7〉  昭和六一年三月、本件売買に係る自己の取分額を、芳子は一億九〇〇〇万円、三郎は六〇〇〇万円として税務申告したが、その際に添付された福田照幸弁護士作成の証明書には、控訴人取分額は二億五〇〇〇万円と記載されていた。しかし、控訴人は、同年一〇月三一日、控訴人取分額を一億六〇〇〇万円として本件事業年度の確定申告をした。

b ところで、控訴人は、借地権価格を割合方式によって算出する場合の土地価格とは、当該建物が最有効利用の状態にない場合ないしは借地契約上土地利用が制限されている場合には、更地価格ではなくて建付地価格を使用すべきものとされているところ、本件建物は最有効利用されていないから六一・九ないし一五パーセント減価した建付地価格を使用すべきである旨主張しているところ、東京建物株式会社の不動産鑑定士海瀬壽文作成の意見書(甲第三八号証、以下『海瀬意見書』という。)は右と同様の見解に基づき、本件においては二割減価した建付地価格を採用すべきであるとし、有楽土地株式会社の不動産鑑定士石川和彦作成の意見書(甲第四一号証)は建付減価は個別格差として考慮するとし、本件においては、最有効利用の建物に建て替えるための条件変更承諾料相当率として、借地権価格に対する割合で一六パーセントの減価が妥当であるとしている。

しかし、本件契約は、前記認定とおり、本件建物等を取り壊すこと及び控訴人の賃借権等と芳子の底地権等を一括して売却することを前提として売買代金が決定されており、しかも、売買に際し、乙土地の借地権価格は甲土地の更地価格の八割と評価されていることからすると、本件建物が最有効利用の状態になかったとしても、それを理由に本件建物敷地部分の借地権割合を減縮する必要はないものというべきである。

c また、控訴人は、控訴人の主張3(二)(1)ないし(7)の事由を挙げて、標準化補正として一割の減価をすべきである旨主張している。

(1)については、乙一部分は転借地であるので、当該部分について二割の減価をするのが相当であるが、転借地でない甲一部分まで減価をする必要はない。

(2)については、乙第一二号証によれば、乙土地の借地契約の更新時期が一年半後に迫っていることが認められるが、賃借人に更新料の支払い義務が当然にあるわけではなく、また、前記認定のとおり、乙土地の借地権の売買代金は甲土地の更地価格の八割の評価額で決定されていることからすると、右の理由で乙土地の借地権価格を減額する必要はないものというべきである。なお、甲一部分の賃借権の存続期間は、堅固建物の所有を目的とする賃貸借で期限の定めがないから、旧借地法二条により六〇年であり、更新時期は三二年先である。

(3)については、本件建物は鉄筋コンクリート造りで、本件契約当時築後二八年しか経っておらず(甲第三号証)、経年相応の老朽化は認められるとしても未経過耐用年数は充分存在し、建て替えの必要な時期が迫っているとは認められない。東京都千代田区の落下物調査による改善、改修勧告(甲第七号証の一)も、その部位、程度からして改修工事により復元できるものと認められる。したがって、(3)の理由で本件建物敷地部分の借地権価格を減額する必要はない。

(4)、(5)については、仮に控訴人主張の事実が存するとしても、本件建物敷地部分の借地権価格を減額する理由には当たらない。

(6)については、本件建物敷地部分の賃借権は自然発生的に形成、確立されたものと認められるところ、権利金は土地の賃貸借契約締結に際し必ず授受されるものではなく、本件建物が建築された昭和三二年当時はなおさらそうであり、甲第二六号証の査定意見書に記載された取引事例においても権利金の授受の有無は記載されていないことからすると、権利金が授受されているか否かにかかわらず、本件建物の近隣地域では堅固建物所有のための借地権価格は更地価格の八割が標準的であると推認される。したがって、権利金が授受されていないことから、本件建物敷地部分の借地権価格を減額する必要はないものというべきである。

(7)については、本件建物が最有効利用の状態にないことを理由に借地権価格を減額すべきでないことは前記bに説示したとおりであり、本件建物の三階部分を芳子が占有使用していることを理由に借地権価格を減額すべきでないことは後記dに説示するとおりである。

以上の次第で、控訴人の標準化補正による減価の主張はいずれも採用できない。

d また、控訴人は、控訴人が本件建物を建築する際に、借地権を設定する条件として本件建物の三階部分を地主である控訴人会社の代表者の自宅として提供する約束をしたため、控訴人は同建物部分を全く利用できない状態にあるとして、個別格差により二九パーセントの減価をすべきである旨主張しているところ、海瀬意見書は、控訴人主張の事実を前提として、これを契約減価事由としてとらえ、一七パーセントの減価が相当であるとしている。

前記認定のとおり、本件建物建築に際し、同建物の三階部分を由楠及びその家族の自宅として提供する約束があったことは認められるが、前記認定のとおり、芳子は昭和五九年一〇月に右三階部分を明け渡して船橋市内の一成方に転居しているのであるから、控訴人の右の主張は前提事実を欠くものとして失当というべきである。

なお、右の点について、三郎は、甲第四三号証の陳述書において、芳子はいつでも戻れるように家財道具一式及び仏壇を置いたまま身の回りの物だけもって一成方に移った旨供述しているが、右前掲各証拠並びに弁論の全趣旨に照らして措信できない。仮に、家財道具や仏壇が置いてあったとしても、それは荷物の保管場所として使用されているものと推認されるから、本件建物敷地部分の借地権価格を減額すべき事由には当たらないというべきである。

e また、控訴人は、本件建物の一、二階部分を第三者に賃貸するには大改造をする必要があるから、本件建物敷地部分の借地権価格を相当程度減額すべきである旨主張しているが、右の主張は、本件建物が最有効利用の状態になくても借地権価格を減額する必要がないのと同じ理由により失当である。

f また、控訴人は、借地権の譲渡に当たっては、その譲渡価格の一割程度の譲渡承諾料が貸主に対して支払われるのが通常であるから、本件売買代金の配分についても譲渡承諾料に相当する分を控訴人の取分額から控除すべきである旨主張している。

控訴人主張のとおり、借地非訟の実務では、借地権を第三者に譲渡する場合に、貸主が介入権を行使して自己が借地権を譲り受けようとしたときは、借地権の譲渡承諾料相当額の減価を認めているが、これは借地人の実質的な手取額を考慮してのことであり、本件のように、借地人の借地権と貸主の底地権を第三者に一括売却する場合には、貸主の承諾の問題やこれを前提とする介入権行使の問題は生じないので、借地権の譲渡承諾料相当額を貸主に取得させる必要はない。右の一括売却の場合は、貸主が借地権を譲り受けて更地として第三者に売却する場合と同一に考えることはできないものである。

したがって、控訴人の右の主張も採用できない。」

3  同三二丁表八行目の冒頭に「g ところで、」を、同丁裏四行目の「異にするもので」の次に「あるうえ、現状のように甲一部分と乙一部分を一体として利用すれば地積狭小による減価をする必要がないのに、甲一部分と乙一部分を分離してそれぞれに地積狭小による減価をしているもので」を、同七行目の「二六号証」の次に「、同第三八号証、同第四一号証」をそれぞれ加え、同三三丁表一行目の「二一・九四」を「二一・六六」に改め、同二行目の冒頭から同丁裏七行目の末尾までを削除し、同三四丁目表七行目の「五七・四〇」を「五六・六九」に、同八行目及び同丁裏四行目の「二億〇四一七万四四九六円」をいずれも「二億〇一六四万八九九三円」に、同一行目から二行目にかけての「二一・九四」を「二一・六六」に、同二行目及び五行目の「七八〇四万一六一〇円」をいずれも「七七〇四万五六三八円」に、同五行目から六行目にかけてと同七行目及び三五丁表一〇行目の「二億八二二一万六一〇六円」をいずれも「二億七八六九万四六三一円」二、同三四丁裏一〇行目の「一億二二二一万六一〇六円」を「一億一八六九万四六三一円」に、同三五丁表一一行目の「七九八万七二四九円」を「七八八万七五八四円」二、同丁裏二行目の「三一八万七二四九円」を「三〇八万七五八四円」に、同四行目の「一億一九八二万四二三二円」を「一億一六四〇万二四二二円」にそれぞれ改める。

4  同三六丁裏一〇行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「10 控訴人は、税務署の納税相談における指導説明に基づいて控訴人の借地権割合を五五パーセントと決定したものであるが、右指導説明と異なる本件更正は権利の濫用であり信義則に反するものである旨主張している。

ところで、甲第一九号証によれば、芳子の顧問税理士である島田雅之と同顧問弁護士である福田照幸が、昭和六一年二月二八日、本件の借地権割合等について芝税務署の税務相談に赴いたところ、同署の担当官が、芳子と控訴人の権利割合は借地権設定の過程やその後の使用状況により決定すればよい旨の応答をした事実が認められる。

しかし、右の応答内容は何ら誤りではなく、右の決定方法に基づいて検討した結果、本件においては、甲一部分、乙一部分の所有権に対する借地権割合及び乙一部分の借地権に対する転借地権割合はいずれも八割とするのが相当と判断されることはこれまでに説示してきたところである。

仮に、芝税務署の担当官が右の借地権割合について、五割でも四割でもおかしくない旨の応答をしたとしても、それは福田照幸弁護士らの断片的な説明に基づいて一般的な応答をしたものにすぎず、右の借地権割合について確定的な判断を示したものとは解されないから、そのことにより本件更正が権利の濫用ないし信義則違反に該当するものとは到底いえない。

したがって、控訴人の右の主張は採用できない。

11 控訴人は、被控訴人が一度承認した本件借地権割合を再度蒸し返して更正決定するのは職権濫用である旨主張している。

控訴人第一九号証、乙第一七号証及び承認鹿野繁治、同工藤眞義の各証言によれば、被控訴人の担当官の担当官が証六二年二月に本件譲渡の内容について不審を抱いて調査を開始したが、確証が得られなかったことから調査を打ち切り、同年四月中旬その旨島田雅之税理士に連絡したこと、その後、買主である日本住建販売から本件契約において多額の裏金が授受されているとの情報が得られたことや本件売買代金のうち九〇〇〇万円が誰からも税務申告されていないことから再び調査が開始されたこと、そして、裏金三〇〇〇万円についての確証が得られたことや、本件契約成立の経過及び本件売買契約書の記載内容等から一成、鼎次は代償分割により九〇〇〇万円を受領したもので、控訴人において九〇〇〇万円が申告漏れになっていると判断されたことから、本件更正がなされたものであることが認められる。

右認定事実によれば、本件更正は、更正処分をなし得る期間内に合理的な理由に基づいて行われたものであり、被控訴人の担当官からの調査打切りの連絡によって控訴人が何ら損害を被るものでないことをも考慮すると、本件更正が職権濫用に当たるものとは到底いえない。

5  同三六丁裏一一行目の「10」を「12」に改める。

二  よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 林道春 裁判官 柴田寛之)

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